溺愛フレグランス



私は自分なりにけじめをつけたかった。その言葉によって友和さんがどう豹変するとか想像もしないまま。
もう一度、私は二万円を友和さんの方へ差し出し、そして、立ち上がろうとした。
その時、二万円を差し出した私の手を友和さんはすばやく掴んだ。その手はねっとりと湿り気を帯びて、私の手を掴んで離さない。

「無理だよ… そんな事…」

友和さんは囁くようにそう言った。
友和さんはこんな状況の中まだ微笑んでいる。私の体は凍り固まってピクリとも動かなくなった。
今まで私が暮らしてきた呑気な世界に、友和さんのような怖さを感じる人はほとんどいなかった。だから、こういう状況に全く免疫がない。
友和さんに強く握られた右手はもう自分の手じゃないみたいに感覚を失くしていた。

「お客様、コーヒーをお持ちしました。
それと、こういうサービスは普段は行っておりませんので、今回一回限りとさせていただきます」

若い男の子の店員さんはそのコーヒーをすぐにテーブルには置かず、友和さんに受け取ってもらうのを待っている。
すると、友和さんはそのコーヒーを受け取るために、強く握っていた私の右手をそっと離した。
私はその隙に立ち上がり「もう帰りますね…」と言うと、カフェの中を必死に歩いた。ただ入り口だけを目指して振り返る事はしないで。