私はそう言った途端、背筋が凍るのが分かった。
私の自宅の電話番号、そんなもの友和さんに教えてない。
それに、マッチングアプリ内でも個人情報は極力教えないように注意喚起がされていた。
お母さんの階段を下りる足音を聞きながら、私は冷静になるよう何度も深呼吸をした。
私が忘れているだけで、何かの拍子に家の電話番号を教えたのかもしれない。
きっと、そうだ…
そう思わなきゃ、まともに会話なんてできない。
すると、子機が急に鳴り出した。
私はトクトク暴れる心臓を無視して、何も考えずに電話に出た。

「もしもし…」
「もしもし、晴美ちゃん、大丈夫?」

友和さんの声は相変わらず優しい。でも、私の受話器を持つ手は気持ちとは裏腹に震えが止まらない。

「あ、はい… 大丈夫です…」

私の言葉にホッとしたのか、友和さんは急に喋り始めた。

「昨日、何度も電話したんだけど、全然出ないから急に具合が悪くなっちゃったのかもなんてずっと心配してたんだ。
目とはいえ脳にも近い場所だし、最悪の事が起こる可能性だってあるわけだし…
僕の責任だと思ってる…
だから、ちょっと話が急だけど…
僕の知り合いで脳神経外科の名医がいて、そこで一度精密検査をしてもらいたい。
費用は全額僕が持つから、そうしてもらえるかな?」