私はソファに座っている朔太郎に向かって肩をすくめる。
朔太郎の傍にいる事は、それだけで私にとって癒しになる。
さっきまで疼いていた瞼の傷も、傷ついた心の苦しみも、朔太郎の温もりと笑顔で半分にしてもらった。
でも、口喧嘩はしたくない。
「晴美…
俺の気持ちはどうしたらいい…?」
バッグを持ちかけた私は、朔太郎の問いかけにゆっくりと振り返った。
「…朔の気持ち?」
そこに朔太郎の気持ちがある事を、私はすっかり忘れていた。
自分に起きた事柄しか考えていなかった。
私は泣きそうな顔の朔太郎を見て、思わず朔太郎の隣に歩み寄る。
この空気感は、懐かしい幼い記憶を呼び起こす。
多分、あれは小学一年生の頃、この朔太郎の家のリビングで二人っきりで遊んでいた。
私は朔太郎が、朔太郎は私の事が大好きでたまらなかった純粋な頃。
私達は見よう見まねでキスをした。それも、くちびるを合わせる大人のキス。
その時、初めて愛おしいという不思議な気持ちを知った。
朔太郎が愛おしくてたまらない。好きとは違う切なくて苦しくて胸が張り裂けそうな崇高な感覚。
幼い私達は何だか胸が苦しくて、二人とも泣いてしまった。
ふと蘇る、あの時の切ない気持ち。
三十を過ぎて大人になったはずの私達なのに、きっと、心の深い場所にある感情はあの頃のままなのかもしれない。



