私はハッとした。あの時、電話と言って外に出た朔太郎は、私のお母さんと話していた。
「あいつの話では、晴美が転んで持っていたバッグが目に当たったって。
でも、張本人の晴美は、おばちゃんがその日の事を聞いても何も話さないって。
一体、何があったんだよ?」
朔太郎は自分の感情を必死に抑えている。傷ついた私の事が心配でたまらないみたいに。
左目だけじゃなく私の心の傷にもちゃんと気付いている。
「友和さんの言う通りだよ…
私が勝手に転んで、勝手にケガした」
「どうやって転んだ?」
ソファに座る私の位置から朔太郎の姿は見えない。
私が朔太郎を探して振り返ると、朔太郎はすぐに私の隣にきて肩を抱き寄せてくれた。
やけにテレビのノイズがうるさく感じる。私の心は昨日の衝撃をまだ何も忘れていない。
「いい大人は、そんな簡単には転ばない。
どういうシチュエーションで、どういう理由があって転んだんだ?」
私は静かに息を吐いて、昨夜の友和さんとの会話を思い出す。
友和さんはキャンディちゃんが死んだと言った。その辺りから私の記憶は曖昧になる。
キャンディちゃんは死ぬはずはないと、私は思った。
トイプードルは確かに小動物で儚げに見えるけれど、だからといってそんな簡単に死なない。たとえ、本当に病気だったとしてもちゃんと動物病院に連れて行けば、そんなすぐには死なない。



