「石田さん、大丈夫ですよ。
晴美は俺が送っていきますから。
っていうより、超近所なんで晴美の部屋まで連れて帰ります」
朔太郎の挑戦的な言葉に石田さんの顔が引きつる。
晴美の部屋までなんて、そんな余計な事、言わなくてもいいのに。
「石田ちゃん、晴美ちゃんの事は朔ちゃんにお願いしましょう。
それにタクシー代も安くで済むじゃない?」
石田さんは私の事を気に入ってくれている。それは戸籍住民課の中では周知の事実だった。
だから、もちろん村井さんも知っている。
でも、今日は、石田さんをけしかけるような事はしない。
普段は、私への猛アピールを大人しい石田さんにけしかけるのが村井さんの仕事なのに。
そんなやり取りの間に、朔太郎は先に席を立ち会計を済ませていた。
「今日は、俺に奢らせてください。
こう見えてもかなり稼いでますんで」
村井さんはうっとりした目で朔太郎を見ている。幼い雰囲気を持つイケメン君のギャップに完全にやられている。
でも、石田さんは違う。温厚な石田さんには似つかない険しい目つきで朔太郎を見ていた。
一歩店を出ると、外はもう真冬並みの寒さだった。
とりあえず駅にあるタクシー乗り場まで皆で歩く。
先を村井さんと石田さんが歩き、その数歩後を私と朔太郎が歩いた。
並んで歩いているのに、朔太郎はずっと黙っている。
その沈黙に、私はこの左目のケガの事を思い出した。
このケガの経緯を朔太郎に正直に説明するのも時間の問題だ。
私は、急に気が重くなる。



