黒の着物に灰色の袴を穿き、黒い羽織を羽織った彼――八重桜 愁(やえざくら しゅう)は、畳の上に寝転がっていた。

「暇だ……」

そう呟いて、愁は表情を崩すことなく庭に咲いている桜に目を移す。

「おーい!八重桜はいるか!?」

玄関から愁にとっては、聞き覚えのある声が聞こえてきて、愁はよいしょ、と呟きながら気だるげに起き上がった。

「朝から騒がしいよ……桐生(きりゅう)刑事」

玄関に愁が出ると、スーツを着た男性――桐生刑事は愁に向かって微笑んでいた。

「すまんな。突然来て……」

申し訳無さそうに桐生刑事に、愁は「良いよ。上がって」と表情を崩さずに言った。

桐生刑事を部屋に案内し、愁はお茶を桐生刑事の前に出す。

「……それで、今度は何の事件を持ってきたの?事件の依頼……なんでしょ?」

お茶を啜り、愁は桐生刑事を見つめた。桐生刑事は、驚いた顔を見せると「……そうだな」と微笑む。

「……亡くなったのは、高校生の男の子。友達と遊んでいる最中、電話がかかって来て自分の部屋へと戻ったそいつは1時間しても戻って来なかった。心配になって、友達が探してみれば、そいつは風呂場で血を流しながら倒れていたそうだ。我々は、自殺と見て捜査を進めている」