「俺は一度、世界を救った英雄だったから」

「一度……?」

 その言い方がなんだか気になった。それを察してかアルクが続ける。

「俺のいた世界は特殊な位置にあったみたいでさ」

 そのせいで、何度か滅びの危機に遭ってきた。

「その度に英雄が現れて世界を救ってきたんだ」

 でも──

「次に起きた危機には、誰も現れなかった」

 それでもどうにかしようと、生きている英雄たちが集まって戦った。だけど、今回ばかりはどうにもならなかったよ。

「それで、あえなくドボン」

 世界中から集められた英雄は二十五人ほど。下は俺が最年少、上は六十五歳なんだぜと肩をすくめる。

 確かに凄いなとは思ったが、そんなに英雄が生きていたってことは──それくらい、世界の危機が頻繁(ひんぱん)に起こっていたってことか。

「俺はこの世界に生まれ変わったけど、そこにいた人たちがどうなったのか解らない」

 みんな、どこかに移転してればいいんだけどな。

 目を伏せてぼそりとつぶやいたアルクの顔に、俺は眉尻(まゆじり)を下げた。そんな哀しい目をしたおまえに、何か言える訳ないじゃないか。



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