「・・・ちょっと待って。」


気が付けば回りは暗くなっていた。


いつの間にか五時のチャイムもなり終わり、


聞こえるのは森から近づくフクロウの唸り声。


これはいわゆる、


『夜』だ。


「どうしよ・・・スマホも電源が切れそうだし…田舎だからWi-Fi飛んでないし・・・」


電波すら私にはわからない。
まだ幼い12歳。
調子に乗って出てきた自宅。



やり過ぎたかなぁ。


「君、どうしたのかな。」


えっ


「俺は川島大揮って言うんだ。君は?どこから来たの。」



誰・・・?怪しい人とかだったら・・・でも今は誰かに助けを求めないと・・・!


「私、日ノ宮蘭って言います!両親と喧嘩してしまって、家から飛び出したままで・・・適当に走ってきたので帰り方もわからなくて、助けてください!」



川島さんという人は笑った。怪しむ様子はなく、信じきった顔で言った。



「大丈夫。俺も昔そうだったからさ。スマホ、充電していきなよ。」



神が降りてきた。
疑うと言う選択肢は私には浮かばなかった。この人は何とも神のような、天使のような存在であり、今はこの人を誰よりも頼ると心から誓った。



・・・



『ガチャ』



どうぞ、という声が聞こえた。
少しレトロチックな部屋で、観葉植物等が置いてあった。



「私、男性の部屋に入るの初めてなんです。その辺、家があんまり緩くなくて。」



差し出されたスリッパを履きながら、小話を持ちかける。



「俺も、女性を入れるのははじめてなんだ。お互い初めてだね。あ、スマホ預かるよ。」



私はスマホを渡した。触れた手はなんとも温かく、体の隅から隅まで暖まった。

川島さんの家は広かった。独り暮らしのはずなのに、部屋が三個くらいあった。



「夕飯は何がいい?作るよ。簡単なものであれば。」



気付いたら川島さんは台所に立っていた。男性用のエプロンをして、前髪をピンで止めている。


「あ、えっと茸が無ければなんでも食べられます。茸は舌が痒くなってしまうので。」



川島さんは笑って了解!と元気に笑った。
川島さんは素敵な人だなあ。エプロンもピンも笑顔も似合う。そんな人に助けられてよかった。

私はオムライスの香りがするのに気づかなかった。