【完】イミテーション・シンデレラ


「ちょっと!何を出てきているのよ?!」

「岬の方こそ、何で泣いてるの?!」

泣いている?
頬を流れる温かい物が涙だって事に気が付いたのは、昴に指摘されてからだった。

私、泣いていたの?するりと落ちていく頬の涙を、昴は部屋着の裾で拭った。

そして私の手を引いて、マンション内に入って行く。 エレベーターに乗り込んだら、両袖を使ってぐちゃぐちゃになった私の涙と鼻水を拭ってくれた。

いつものように笑ってはいなくて、少しだけ困った顔。 切ない表情で私の涙を何度だって拭う。

「昴、洋服が汚れちゃう。」

「いいよ、洋服なんか。 それより何で泣いていた?真央になんか言われたか?」

「何で、真央よ」

「岬が泣く事と言えば真央の事か、仕事で悔しい事がある時じゃんかよ」

そういえば、そうだった。
いつもいつも、昴は叶わない真央への想いと、仕事の愚痴を聞いてくれて

お酒が入ったら直ぐに泣いてしまう私を慰めてくれた。 けれどこの涙は、そういった類のものではないと思う。

昴の事を想い、泣いていた。 そんな事あんたに言ったら、困らせるだけでしょう?

こうやって昴に優しくされればされるほど、涙が溢れてしまって、涙腺が崩壊してしまったかと思った。