お皿を昴の方へ向けると「違う、」と言い放たれて、自分の唇を指さす悪戯な笑顔を浮かべる。
口を少し開き、こちらへと突き出す。 こ、これってあーんしろって事だよね?! そんな恋人っぽい事したことないから、持っていたフォークがカタカタと震える。
少しだけ身を乗り出してぱくりとステーキを食べると「美味しい」とまた無邪気な笑顔を見せる。 その笑顔を見ていたら、さっきのモヤモヤさえもどうでも良い事なのかもしれないと思い始めた。
過去は変えられない。 私は昴が人を好きになるとどれだけ大切にしてきたか、1番間近で見て来た人間だ。
そんな昴が選んでくれたのが私なのだ。 もうちょっと自信を持とう。
「そういえばさ、愛歌ちゃんの11月に出した新曲めちゃくちゃ良いよね」
昴がスマホを手に取り、西園寺さんの新曲を流す。
個室だから、誰にも迷惑はかからない。 そう考えたら個室だって良いかもしれない。
「知ってる知ってる。めっちゃ切ないけど綺麗なクリスマスソングなんだよねーッ。
こんな恋がしたいって思える奴~」



