目の前の昴は、にこにこ笑っている優しい昴じゃない。 顔を真っ赤にさせて、その場でしゃがみこみ頭をかいた。
それじゃあ、今まで怒っていた素振りを見せたのも、喧嘩したあの時も…まるで嫉妬みたいじゃない。
はっきりと私を好きだと言った。初めて聞くその言葉に動揺は隠せない。 そもそも昴と私の話は少しも噛み合ってない。
「昴…言っている意味が全然分からない」
顔を上げた昴は、頬を少し赤く染めて「ばーか」と意地悪な声で言った。
立ち上がったかと思えば、再び私の手を取り道路に横付けされるタクシーに乗り込んだ。
家の住所を告げると、そのまま私の肩に頭を乗せて黙り込んでしまう。
瞳の縁がじんわりと温かくなっていく。 胸がきゅんきゅんと甘い警告音を鳴らす。 でもそれは、幸せを告げる響き。
繋がれたままの手のひらはまるで欲しかった未来を握り締めているようだ。 私はいつから昴に彼女と認識されていたのだろう。 昴は一体いつ私を好きになってくれたの?
何で今まで何も言ってくれなかったの? それって意地悪?私の気持ちを分かっていながらも、いつも通りからかっていただけ?
聞きたい事は沢山あったのに、言葉が上手く出てこない。 それでもタクシーの中、確かめておきたい事がひとつあった。



