「るせ!お前に言われたくない!
それに俺は本番でこそ実力が発揮出来るタイプだ。
ほら、行くぞッ。失敗して俺の足を引っ張るなよ?!」
「あんたがそれ言うー?さっきまで動けない位かちこちだったくせに?!
今にも泣きだしそうな情けない声を上げてたくせに?!」
「それは!お前が圧力かけるからだろがッ俺は繊細なんだ!」
真央と西園寺さんの言葉がぶつかり合う。 とはいえ、さっきとは大違いで真央はすっかりとプロの顔になっていた。俳優としての姫岡真央のスイッチはとっくに入っている。
西園寺さんはしゃがみこんで、私へとにっこりと微笑む。 そして白く長い指を私の頭へと乗せた。
「さすが、アイドル。 どんな時でも、笑顔を忘れず。だもんね。
アイドルってかっこいいね」
アイドル時代も何度も裏で泣いた。 負けず嫌いだった私は人前で涙を流すのを嫌い、裏でこそこそといつだって泣いた。
振り返ってみても、アイドル人生笑顔より落とした涙の数の方が多かったかもしれない。
けれど沢山の涙の上に成り立つ、笑顔があった。 真央と西園寺さんのやり取りを聞いて、いつの間にか涙は引っ込んでいた。 何故か隣に居た類くんの方が自分を責めていて、私より泣いていたので笑えた。



