「ステージからおりろ!」
「類から離れろ!」
一人の女の子は泣いていて、もう一人の子は憎しみに満ちた瞳でこちらを睨みつけながら罵声を浴びせる。
その横で私のファンらしき男の子が、女の子たちに掴みかかる。
おでこの痛み。それどころじゃない。このままだったらステージがパニックになってしまう。
警備員さん達が、客席の争いを止めるように入って、ステージ袖に居たスタッフさん達がざわざわと動き出すのが雰囲気で分かった。
「み、岬ちゃん…」
隣に居た類くんさえもかなり動揺していて、足を止めた。 遠くで「岬を引っ込めろ!」とスタッフの指示が飛んだ。
どうしよう、このままだったらウェディングショーがめちゃくちゃになってしまう。 ジンジンと痛むおでこを触ると、生暖かい感触を感じる。
慌てたように類くんがこちらへ手を伸ばして、「岬ちゃん、血が…」と言いかける。 …嫌だ。
このままじゃあ全部台無しになってしまう。 本当は怖くて堪らなかった。けれど出しかけた類くんの手をぎゅっと握りしめて今自分に出来る最高の笑顔を作った。
’がんばれ’そう言った昴の声が確かに聴こえた気がしたんだ。



