【完】イミテーション・シンデレラ


類くんの腕を掴み、一歩前へ出ると自然と笑顔が作られていく。

胸を張って、ただひたすら前を見て歩く。 ここは私に用意された舞台だ。 そして見てくれる人を前に、憶病ではいられない。 怖がってばかりはいられない。


音楽と共に類くんの腕を組んで歩く道。
私はどちらかと言うと、真央と同じでメンタルは強い方ではない。

アイドル時代からコンサート前は緊張ばかりして、手足の震えは止まらなかった。

今日は類くんと熱愛報道が出てしまったからなおさらだ。 人の目が怖かった。 自分以外のファンの人の評価ばかり気にしていた。

でも不思議なんだ。 舞台に立った瞬間、震えは止まり笑顔が自然と零れ落ちる。 この仕事が好きで、仕方が無かった。 辞めたい。引退したいとばかり思ってしまっていたのに、いつだって引き止められてしまう。 そんなの、好き以外の理由はどこにもないじゃないか。

中心のステージに立った瞬間、キラリと光る物が飛んできて思わず目を瞑る。
おでこに小さな痛みと共に、床に指輪のような小さな金属の欠片が転がって行った。
それと一緒に観客席に居た若い二人組の女の子達が大きな声で叫び出した。