私は何てことを、類くんに…。
不敵な笑みを浮かべた類くんが私の顔を覗き込む。
手足が震える。真っ赤になってしまい、言葉は返せないままだった。
そんな私を、類くんは後ろからぎゅっと抱きしめて昴へと視線を送った。 立ち止まる昴は少しだけ眉をしかめ、何かを言いかけるように口を開く。
「ちょっとだけ意地悪させてよ。 ずっとファンで良いなって思ってたのに、きっぱりと振られちゃって悔しんだから」
「ちょ、類くん…!」
抱きしめたまま、昴から見えないように顔を覆う。
こ、これじゃあ昴側からして見たらキスをしているように見えるじゃないか!
ぐいっと両手で類くんの顔を引き離すと、類くんはふにゃっとした顔で笑う。
足を止めてこちらを見つめる昴の表情は、笑ってはいなかった。 真っ直ぐとこちらを見据えて、目をぱっちりと開けて口をパクパクと動かす。
一言。空気みたいに口を動かすだけで、その場から颯爽と居なくなる。
ガヤガヤと騒々しい舞台袖では昴の言葉は私の耳には届かなかった。 けれどハッキリと何を言っているのかは分かった。
動かされた唇から、広がって行く希望の言葉。 ’がんばれ’ 確かにそう言ってたんだ。



