アタシがアンタを好きになるなんて絶対にあり得ない


「……すごい」

思った以上に、ソイツの手先は器用だった。この男、ホント何でも出来るんだ。

「永瀬さんほどではないよ」

と、謙遜していたけれど、既製品みたいな出来だった。発砲スチロールを削って作った小道具は、ソイツが上から紙粘土を重ねたり、色を塗ったりしたおかげでまるで本物だ。

アタシは造形や塗装じゃなくて、布を縫い合わせて飾りの一部を作っていた。だから、造形と裁縫を同列に並べるのはおかしい気がする。

「はいはい。お世辞でもありがと」

そうてきとうに返すと、

「本心なのに……」

と少ししょんぼりして見せた。

「いいから口より手を動かしな」

気不味くなり、そう急かした。でも、実際小道具作りの手が少し足ていないのは事実だった。クラスの半数が演劇、台本制作、ライト係、音響係、大道具制作係、衣装係に持っていかれているからだ。

大道具は大きな道具、小道具はちょっとした小物を作るから、割く人数に差があるのは仕方ない。美術とかいう色塗りも時間がかかるし。

だから、小道具制作係はアタシと高宮しかいない。それを、「二人っきりだね」なんて笑っていたけど、ホント手が足りない。

「あとどれ作ってない?」

高宮に作るもののリストを尋ねると、

「あとはこれと、これ」

と、軽く返事が返ってくる。小道具を一つ作り上げるには学校の授業だけを使えば、1日、または2日ぐらい時間がかかる。本番までまだ時間はあるけど。時間、足りるかな。そう、不安になった時、

「大丈夫。間に合うよ、ボクとキミなら」

そう、優しく声をかけてくれた。ゆっくりと、言い聞かせるようなその声に、一瞬、何かが揺らぐ。でも、それをグッと堪えて睨み付けた。

「根拠のない自信ほど迷惑なものはないよ。さっさと作り上げる!」

そう返すと、高宮は驚いたように目を見開き、妖艶に微笑む。

「そうだね。……ちゃんと、完成させなきゃね」