アタシがアンタを好きになるなんて絶対にあり得ない


小道具を届ける時みたいに、高宮は重い荷物の方を持ってくれた。

「デート楽しかったね」

なんて言われでも、アタシは楽しくなんかない。なんだか気持ちがモヤモヤして落ち着かない。

「全然」

そう、答えたのに

「また行こうね」

なんて高宮は返す。人の話聞いてた?

それから数回、アタシは高宮と買い出しに行く機会があった。

明日は文化祭本番で、今日は最後の買い出しだった。と言っても、お菓子を買うだけなんだけど。他の女子達も一緒に行きたがってたみたいだけれど、高宮が

「頑張ったキミ達を労わりたいんだ」

とか、微笑んで言いやがったので、最後まで二人きりの買い出しになった。

「ねぇ、永瀬さん」

帰り道、ゆっくりと口を開いた。

「キミのコト、『槙乃ちゃん』って下の名前で呼んでいい?」

驚いてその顔を見ると、思わず惚けてしまいそうな笑みでアタシを見ていた。

「ボクの事『天澄』って呼んでいいからさ」

「なんでよ」

その顔を見ていられなくて、逸らした。

「こんなに仲良くなったのに苗字呼びだなんて他人行儀すぎてちょっと寂しい」

しょんぼりと、犬だったら耳と尻尾が下に下がってそうな雰囲気でいじけられた。アタシとアンタは他人だろ!……でも、

「……別にいいよ」

あんまり悪い気はしなかった。

「でも、ちゃん呼びが気持ち悪い」

「えぇっ?じゃあなんて呼べばいいの?『槙乃』?」

少し、絆されてしまったみたいだ。きっとただ、一緒にいる時間が他よりちょっと長くて緩んだだけ。係が終わればもう、関わることもないだろう。

「……ちゃん呼び以外だったら、別にいい」

とか答えたら、『まき』だなんて家族にも呼ばれたことのない愛称を付けられてしまった。強いて言えばさんを付けるか呼び捨てだろ?!