不意に、強い風が吹いた───



その強い風に煽られて桜並木から、桜の花びらがひらひらと舞って落ちてくる。


その花びらは、私の手のひらの上にそっと落ちて。


『桜。』

『きっと、もうあなたとは結ばれることはできないでしょう。』


また。


何かが一瞬、聞こえたような。見えたような。

 

「……あれ。」

瞳から、水滴が顔をつたっていると気がついたのは少し経ったときだった。

「何で、私……泣いて。」


何かがあった訳でもないはずなのに。涙が溢れてくる。

その感情が何なのかはわからないけれど胸に染み渡る気持ち。


けれど、悲しいわけではない。はずなのに。

『──さん。』
『大和さん。』

次々と、何かは一瞬ずつ出てくる。



「──あっ。」


パッと浮かんで消えた「何か」の中に不意に少女が映った。



私は、この人を知っているかもしれない。


この少女を私は知っている。