───sideA

「もしもし?」

(もしもし?着いた?)

「うん、無事に着いたよ!」


電話の向こうの友人の声は明るく、私の声までつられて明るくなった。


(小梅、ずっと行きたいって言ってたもんねー。温泉はもちろん入るでしょ?)

「うん、入る入る。」


片手にはキャリーバックを引いて、小さなサブバックも持って。

私は、ガラガラと舗装されたアスファルトの上を歩いていた。


(一人旅楽しそうだねー、いいなー。私も行きたかった!)

「それ、もう一人旅になってないよ!」


私が思わずと言ったようにツッコミを入れると、友人はゲラゲラと笑った。

(小梅のお土産待ってるねー。金平糖弁当と缶あめよろしくー!)

「はいはい。」

全く、ちゃっかりしているもんだ。


軽く相づちを打って、私は電話を切った。


三月の終わり。四月が始まるちょっと前。

私は高校卒業ということで新生活前に一人旅に来ていた。


春からは大学生。その前に思い出を作っておきたい。

そしてやってきたのが、ここ。全国でも有名な温泉町だ。

「さてと。」

私は一息つくと、またガラガラとキャリーバックを引き始めた。