𝄋

僕は、あのとき死にたかった。どうしようもなく死にたかった。


だから、僕はあのとき。
自殺しようとした。


誰もいないビルの屋上に登って、飛び降りようとした。

後ろに最後の柵の感触を確かめて、目の前の宙へと一歩踏み出して。

確かに僕は飛び降りた、けれど。


「だめっ!!!!」

不意にそんな少女の声が聞こえた。

そしていつの間にか、落ちかけていた僕の手首を強く掴んでいた。


「離してください。」
「嫌だ、絶対に離さない。」

こんなのダメだと少女は泣きそうな顔で叫んだ。


「僕の死にたいっていう気持ち、君に何がわかるんですか。」

どうしようもなく苦しくて、辛くて。

出口も見えない。希望だってない。

もう、終わらせたいって思わせてほしいって、どうして名前も知らない少女にわかるというのか。


「そんなのわかりたくもないって…言いたいところだけど。わかるよ。君の気持ち。」

少女は、さらに手首をつかむ腕に力を込めた。


「だからこそ、死なないで!生きて!」
「離してください。」
「離さない!!」

少女は何故かポロポロと涙を落とした。


「あのね、辛くて悲しいから死にたいじゃないの。辛くて悲しいから、救われたいってそう思うべきでしょ?」

君は、救われたい?と少女はゆっくり問いかけた。


自分は、救われたいんじゃないのか?
本当に死にたいのか?
いや、死にたい。

本当に?


僕は、目をつぶった。

「僕は。」


― あんたに生きる価値なんてないんだから!

―何であんたが生まれてきたの?何で…


僕は。