もし、好きな人と結婚することができる世の中だったら…私は大和さんとお別れすることもなかったのかな。


そんな世の中が来るとは思わないけれど。

ギュッと、着物の袖を掴む。

明日、私は結婚する。
白無垢を着て、私は嫁ぐ。


なんとなく、私は空を仰いだ。

桜の樹の枝が見える。


「桜。」


私がそう言って手を伸ばすと、桜の花びらがひらひらと落ちてきた。

私は懐から和紙を取り出すと、そっと和紙に包んだ。


大和さんを忘れないために、持っておきたかった。


「きっと、もうあなたとは結ばれることはできないでしょう。」

そう。もう会えない。



「けれど、またいつか巡り会えたなら。その時は。」

生まれ変わり。


信じているわけではないけれど、本当にあるなら、神様。


生まれ変わったら、今度は大和さんと結ばれたいな。


また、どこかで大和さんに会えますように。


それだけが、今の私の真摯な願いだった。




ゆっくりと、私は神社を出ていく。けれども振り返ることはなく。

「きっと、もう来ることもない。」


今までありがとう、と呟いた。


「…さようなら。」