「食事は結構」

料理の匂いなどまるで嗅いでいないかのように、黛さんが強い視線を大江に向ける。

「貴方は何の為に機関を生み出したの?」

「おかしな事を訊く」

椅子の背もたれに寄りかかりながら、大江は下卑た笑いを浮かべた。

「国防の為だよ。どんなに強力な兵器が開発されようとも、白兵戦…そして兵士の必要性は未来永劫変わる事はない。ボタン一つで飛んでいき、国の中枢を破壊する事ができるミサイルを持っていても、その後の上陸戦で活躍するのは、やはり有能な兵士なのだ」

彼は席を立ち上がる。

「そこで君達覚醒者なのだよ。武器も持たず、単身敵地に潜入し、どんな探知機にも引っ掛かる事なく、弾薬の補給も必要とせず、武器の現地調達すら必要としない…黛君、君の能力などどうだ?どんな厳重な警備の中へでも、一瞬にして潜入する事ができる。誰にも発見される事なくだ」

「……」

黛さんは何も言わずに大江の話を聞いていた。

「特に黛君と…小山田君だったか…彼の能力を、私は高く買っていたのだよ。君と彼のような覚醒者を量産する事ができれば、この国は更に強くなる。核など保有せずとも、敵国の中枢に覚醒者を送り込み、一瞬にして業火に包み込む…どうだね、最強の兵器だと思わないかね?もっとも…」

大江は表情を曇らせ、さも悲しげな顔を見せた。

「残念ながら小山田君は、量産型覚醒者の『暴走』によって命を落としたようだが…惜しい事をした…」