大江幸次郎。

現職の内閣総理大臣。

庶民の目線に立った政策を次々と打ち出し、『初めて国民の立場を理解した政治家』として戦後最高の支持率を得た男。

外交においても大国と対等に渡り合い、諸外国からの評判もいい。

まさに非の打ち所のないこの国の長。

それが彼の表向きの評価なのだそうだ。

…その男が今、目の前で耳障りな咀嚼音を立て、食事をしている。

私達は拘束こそ解放されたものの、周囲をグルリとライフルを手にした兵士達に囲まれ、大江と同じ席に座らされていた。

「どうした…食べないのかね?」

ナプキンで口を拭いながら大江が言う。

「サミットの晩餐会でしか出される事のない最高級のフルコースだ…金があったからとて、なかなか食べられる料理じゃない」