南の島のクリスマス(十年目のラブレター)

「冬ちゃん、こっち。」


 先輩は『未来』ではなく『冬ちゃん』と苗字で呼ぶ。切れ長の少しだけ()れた優しい目でわたしを見ると口元から(こぼ)れる八重歯(やえば)も好きだった。


「冬ちゃんは、とりあえずアタシの隣の席使って。」
「ありがとうございます。」
「えーっ、チーフ、そりゃあないっしょ!」
またそこにチャチャ入れてくる男を(にら)む。

「どうして?」
「だって未来先輩は俺がスカウトしたんすから俺の隣でしょ?普通。」

「ごちゃごちゃ言わないで席着いて!」
ピシッと先輩が言ってくれてホッとした。それを遠くから見てウインクする雫。


*黒木亜紀(32)
未来の会社の営業企画部のチーフ。二児の母。一人っ子の未来にとっては信頼できる姉のような存在。