その年の夏、准の病気が再発し…その治療のため高吉には莫大な治療費が必要だったのだ。


 少なく見積もっても数百万はくだらなかった。その額は都会の人間にとっては
たいしたことのない額かも知れないが、貧しい島の人間には莫大な金額。


「ええですか、高吉さん!ちょっと待っちょって!今、漁協長に知らせてくるけん!絶対に一人で無茶したらいかんけん!」


 しかしその順平の忠告を無視して、船を出した高吉。


 悪いことに、その日は前日から近づいていた大型の低気圧の影響で今にも嵐になりそうな空だった。



風は港の旗をバタバタと()ぎ倒すほどだった。


   ーーそんな時間は俺には…
     准にはねえんだ!
     俺あ行くけん!准、待っちょれ!


荒れ狂い始めた海に無謀にも出て行った准の父親。