「ねぇ素直。そんな顔してるのに、俺のこと男に見えないの?」
男に……って、もう何もかも、わかんないよ……っ。
こんな理太に……両腕を捉えられているあたしは、
このあとどうなってしまうんだろう……。
不安よりも期待が大きい自分の気持ちに気づいて、混乱する。
何……これ……。
「へー……まだ、わかんないんだ?」
伏目が、唇が、声が、息遣いが。
甘い香りが、近づく。
あたしの脳をおかしくしてしまいそうで。
「もう。しちゃ……だ、め……っ」
理太に頭突きでもして、すべての刺激を遮ろうとしたの。
なのに、
――ガツッ。
唇に、いや、歯に何かがぶつかった衝撃。
ハッとして目を見開くと、
「……痛」
と、顔をしかめながらも、尋常じゃない色気をまとう理太に、目を奪われてしまった。
でもすぐに正気を取り戻したあたしは、目を瞬く。
……理太の唇に、赤色がにじんでいく。
理太の唇が……切れてる。
「……っ、もしかして……あたし……」
歯で理太の唇に……!?
サーっと青ざめるのか、カーっと赤くなるのか、
身体が心に追いつかなくなっているさなか、
「……キスの下手な子は、俺の好み」
親指でその血を拭うと、理太は満足そうにゆるく口角を持ち上げた。
「俺が教えてあげよっか。…正しいキスのしかた」



