「未夏、どうした?」

雨の降り止まない町を走り続けていると、偶然にも帰宅途中の鉄平に未夏は会うことができた。未夏は耐えられなくなり、その場に泣き崩れる。

「未夏!大丈夫か?何があった?」

鉄平が駆け寄り、訊ねてくるが未夏は泣いていて何も答えることができない。しかし、鉄平は未夏が手に持っている赤紙の存在に気付き、「そういうことか」と呟く。そして未夏の手を両手で包み、言った。

「未夏、泣くな。僕のこの手に守れる明日があるなら、僕は喜んで向かう。未夏がつなぐ未来のために」

そこに向かえば死んでしまうかもしれないというのに、鉄平の顔は優しい笑顔だった。未夏はしゃくり上げながら鉄平を抱き締め、叫ぶように言う。

「私を置いて行かないで!兄さんがいない未来なんていらない。だからここにいて!」

降り止まぬ雨の中、二人は抱き締め合っていた。



未夏は「行かないで」と言い続けたが、戦争に行かないということは世間から白い目で見られることになる。道は一つしかないのだ。

鉄平が家を出る日が少しずつ近づいていった。家には鉄平が着る軍服が届いた。