「おーい」

「うわっ」


気がつくと、背後からやつが覗いていた。


「あのー、遅いんすけど」

「悪い。今、行く」

「ったく、何ぼんやりしてんすか?あ、もしかして、今さらになって後悔っすか?あん時、勢い余って辞めるなんて言わなきゃ良かったなぁとか」


マジか。

図星だな。


「そんなこと思ってねえ。お前に指示されなくて良くなるし、むしろ良かったわ」


当たりすぎてて恐ろしく、つい反論してしまった。


「そうっすか。今まですみませんでしたねー」

「そうだそうだ。謝れ」


なんて言っているが、心はズキズキと痛い。

本当は思ってない。

本当は今も

これからも

一緒にいたいんだ。

こいつと。

......久遠由紗と。

久遠は席に戻ってもなお、変わらずパクパクと旨そうにケーキを口に運んでは、オレが持ってきたコーヒーをガブガブと飲む。

いつかの激甘のココアを思い出し、手がじんじんとしてきた。

微量の電流が流れる。

手が痺れて、その電流が心臓まで達する。

胸が...苦しい。

痛い。

おい、何してんだ、オレ。

しっかりしろ、オレ。

オレが守るものは、ここにはない。

オレが守るのは、羽依だ。

オレはこれから羽依を守るんだ。

羽依だけを守っていくんだ。

だから......