「椎名羽依さんっていうのは、オレのカノジョで、部長は部長だから。ちょっと変わり者だけど頼りになるし、見た目ドライだけど根っこは優しいし、温かいやつで、だから...その...頼りたくなったから、頼ったっていうか。だからその...二股とか、そういう訳じゃないから!ゲホッゲホッ!」


一気に叫んでしまい、咳が出た。

ったく、焦りすぎだろ、オレ。

しっかりしろ。


「朔空」


母さんが歩いてくる。

ふわっと母さんの香りがした。

母さんはオレの真横に正座し、オレの頭に手を置いた。


「自分の胸に手を当てて良く考えなさい。そしたら、本当に欲しいものがちゃんと見えてくるはずだから」


母さんは諭すようにそう言い、それ以上は何も言わなかった。

母さんの作った月見うどんとお浸しを食べ、オレはまた横になった。

天井を見上げてさっきの母さんの言葉を思い返す。

自分の胸に手を当ててオレは考えた。

オレが欲しいもの...

オレが欲しいもの......

今、1番失いたくないもの......

失くなったら悲しいもの......

失くなったら苦しいもの......

この胸が痛むもの......

それは......

なんだろう。

ではない。

"誰"だろう。

この胸を苦しめるのは、

この胸を占めるのは、

どっち、なのだろう。

今までなら、考えなかった。

オレの中で選択肢はいつだって1つで、

それ以外考えられなかった。

だけど、今、

今、オレの胸をざわつかせているのは、

あの存在しかない。

オレはあいつを......

久遠由紗を......

本当は、どう思ってるんだ?

仲間?

同志?

それとも......