そんな他愛もない話をぐだぐだしながらあっという間に時間は過ぎた。

いつも1人だから、愉快な宴の後はどっと疲れるから早く帰りたいのだが、あの方が帰してはくれなかった。


「ねぇ、由紗ちゃん。最近どう?って言っても学校行ってなかったかぁ」

「はい。行っていたのはバイト先です。新聞配達と工場勤務で大分稼げました。今月は少し贅沢が出来そうっす」

「そう。それなら良かった。ほんと、由紗ちゃんが笑顔に戻ってくれて良かった」


美郷さんは酔っているせいか、泣き出してしまった。

まぁ、そうでなくても涙もろい人ではあるが、今日は一段と涙腺が緩むのが早い。

そんな妻を見て心配になったのか、歩先生が手を差し伸べた。


「心配だったんだよね、由紗ちゃんのこと」

「うん...。だって、ワタシがOK出しちゃったのが悪いのに、由紗ちゃんがあんなに傷付いたんだもの」

「美郷さんが全面的に悪いわけではありません。そもそも私があんな提案をしなければ、美郷さんが教師を辞めることもなかったんです。こちらこそすみませんでした」


私が頭を下げると、すかさず歩先生が私の肩を掴み、体を起こさせた。

歩先生は首を真横に2度振り、私の瞳の中央に写り込んだ。

視線が交わり、目の奥がじわじわと熱を帯びてきた。

そんな中、歩先生は言葉を紡ぐ。


「誰が悪いなんてない。

数学者が一生をかけても解けない方程式があるように、人生においても解けない問題は必ずある。

それはなぜか。正解がないからだよ。

無いことをいつまでも探すのは止めよう。

美郷も由紗ちゃんもいいかい?」