合図が聞こえ、オレは勢い良く飛び込んだ。

お腹を強打することもなく入水完了。

後は計画通りのペースで息継ぎをすれば......。

そう思ったのだが、数メートル先に美河原くんの足裏が見えた。

くそっ!

このままじゃ負ける。

急げ。

もっと、

もっともっと、

もっともっともっと、

速く速く。

手を回せ。

足を動かせ。

行けっ!

行けっ!

行けるっ!

ターンをし、折り返す。

美河原くんは依然として前にいる。

焦るな。

けど、速く。

素早く息継ぎをして、戻る。

泳ぐ。

ひたすら泳ぐ。

いつの日か言われた、泳ぐ時はマグロになれという久遠のメッセージを思い出す。

こんな時になぜ思い浮かんでくるのだろう。

いや、こんな時、だから、か。

こういう崖っぷちの状況こそ、久遠由紗が最も映える場面だ。

世界一、崖と高波が似合う女だ。

なんてことを考えているうちに、遂にラスト10メートル。

もはや、隣は見えない。

見えないが、行く。

オレは最後の力を振り絞り、壁を叩いた。