「ごちゃごちゃ言ってないで行きますよー」


久遠が歩きだし、後ろからオレと東条も着いていく。


「市ヶ谷くん」

「ん?」

「俺もワンコって呼ぶからよろしく。でないと、ゆっち、おこになるから。ちなみにワンコもゆっちって呼んでやって。唯一気に入ってるニックネームだから。で、俺のことはひなで」

「あぁ、分かった」


とは言ったものの、久遠をゆっちと馴れ馴れしく呼ぶのは抵抗がある。

そもそもオレはモテはするが、女子とはあまり話さない。

向こうも鑑賞対象って感じでオレを見てくるし、そうなると話しかけようにも話しかけられないんだよな。

もっと気軽に話せてたらなぁ。

なんて思う心は1パーセント未満。

オレには羽依がいるからいいんだ。

羽依が全部満たしてくれる。

癒してくれる。

拭ってくれる。

そういう存在が、羽依なんだ。

なんてことをぼんやりと考えているうちに目的地に到着した。