「ワンコ」

「ん?どうした?」


久遠が口を開いた。

オレはちらっと久遠に視線を向ける。

久遠の顔が街灯の淡いオレンジ色に照らされて色付く。


あ......。


オレは気づいてしまった。


「今日はお疲れ様っした。本当に素晴らしかったっす。パチパチーっす」


パチパチ、って...。


「なんだよ、それ」

「叩くよりは音響かないかなぁと思って口で言ってます」

「そっか」

「はい、そうっす。ほんと感謝してます。だから、ワンコの願い事、1つ聞いてあげようと思います」

「えっ?オレの願い事?」

「えー。おそらくこの空に願っても届かないと思うんで...。残念すけど」


久遠はそう言うと、目を伏せた。

オレの胸がドクンと鳴り、全身に嫌な熱を帯びた血液が循環していく。

久遠でも、こんな顔するのか...。

どこか寂しそうで、

どこか悲しそうで、

何かを願っても叶わないからって諦めているような、

そんな表情。

そしてそれを見てオレは......

無性に救ってやりたくなった。

どうしてこんな顔をするのか、知りたくなった。

何も考えてないような、単調な喋り方の裏の表情に、オレは困惑していた。