「たのしみにしています」
「あ、の、」
「ベッドで待っててください。俺のかわいい奥さん」
にっこりと微笑んで、私の頬を撫でてバスルームへと歩いて行ってしまった。
へなへなと倒れ込んでしまいそうな体を叱咤して、おぼつかない足取りで、ベッドに縺れ込んだ。
どうしようもなく混乱していたところまでは、覚えている。
「柚葉さん?」
つまり、私も連日の勤務で、疲れきっているわけで、誰かに耳元で囁かれる音を聞きながら、深く眠りの海に誘われてしまった。
「ゆずは?」
「寝顔もかわいいから、まいるな……」
やさしい声が、聴こえていたような気がする。
睡眠の質はとてもよくて、あんなにも悶々としていたことすらすっかり忘れてしまっていた。
やさしい指先が髪を撫でつけている。
おもわず頬ずりしてしまいたくなるようなあたたかい手に、頬がほころんでしまった。
夢うつつに、額に何かが触れて、何度も聞いたようなあまい音を鳴らされた。
夢の中で、遼雅さんの瞳がとろけそうに笑んでいる。
すきだなあ。
誰に告げるでもなく、唐突に思って、目が開いてしまった。
「あ……」
「うん?」
今、私は何を考えていたのだろう。
呆然として、私の顔を覗き込んでいる人と目が合う。しばらく見つめあって、ようやくそれが、夢の中の人と同一人物であることを思い出した。


