「さき、入ったんですね」

「はい、いただきました」

「うん、シャンプーの匂いも好みだけど、たぶん柚葉さん自身の匂いに惹かれてる」


絶句してしまいたい。

言葉を紡げずにいれば、くすくすと笑う人がようやく手を緩めてくれた。

遼雅さんの腕の中で、斜め上にある顔を見上げる。数時間前にも見たのに、新鮮な気持ちできれいだと思えるから不思議だ。


「柚葉さんに何かがあったわけじゃなくてよかったです」

「あ、連絡、ごめんなさい」

「ううん。俺が勝手に心配しただけ。気にしないで」


微笑んで、キャンディみたいなキスをくれる。

遼雅さんは心配性だけれど、結婚の経緯にあの傷害事件があることを考えると、あながち警戒するのも間違いではないと思ってしまう。

結婚について大っぴらに公表していないのは、その辺のことも考慮してのことだった。

もちろん、私としては、遼雅さんに好きな人ができた時にすっぱり消えるために必要なことだと思ったから、とくに不満はない。

じゅうぶんに大切にしてくれているけれど、それがゆえに、好きにならないでいられる自信がない。

すでに、ほとんど揺らいでいる。


「……ただいま」

「お、かえりなさい」