「連絡、気づきませんでした?」


すこし不安そうな顔だ。

首を傾げながら問われて、やはり遼雅さんの帰りの連絡を無視してしまっていたことに気づいた。

いつもポケットに入れるようにしていたのに、姉と話していたからつい忘れてしまった。


「ごめんなさい、テーブルに置きっぱなし……」


途中までつぶやいて、あたたかい片腕に引き寄せられた。

言葉が、続かなくなってしまったまま、ぎゅっと抱きしめられる。

もう、刷り込みのように腰から背中へと自分の腕を伸ばしてみて、ますます遼雅さんの腕に、抱きしめる力が込められたのを感じている。


やさしい、あまい、おちつく。

全てを兼ね備えた、魅力的なにおいだ。


「どうしてこんなに、いい匂い、なんですか?」

「うん?」

「毎日くらくらします」


視界の端に見えていた、遼雅さんの片手に握られている高そうな鞄が、ぱたり、と音を立てて崩れ落ちてしまった。

あっと声をあげる暇もなく両腕で抱きなおされて、頭の上に頬が擦れる感触がある。遼雅さんとは背の高さに大きく開きがあるから、抱きしめられるとすっぽりと埋まってしまうのだ。

まるで、パズルのピースがぴったりと当てはまるような感覚で、むず痒い。


「俺も、柚葉さんの匂い、たまらなく好きです」

「ええ!? ぜんぜんです。今は、お風呂上がりだから……」