はずかしい。

狼狽えている瞳さえも、じっと観察されている。目が合ったら、やわく瞼が笑った。


「たち、」

「名前」


訂正させられて、ぶわあっと昨日の熱が蘇ってくる。

間違えるたびに直されたから、声が壊れるまで呼ぶことになった。思い返すだけでもはずかしくて、遼雅さんの胸に額を隠しながらつぶやく。


「りょう、が、さん」

「……覚えてくれていてよかった」

「おぼえて、ます」

「ぜんぶ?」

「……た、ぶん」


ゆっくりと髪を撫でられている。

愛するようなあまい指先に勝手に痺れて、とっくに好きになってしまっていそうだ。


「はは、柚葉さん」

「は、い」


耳に吐息が当たってくすぐったい。

わざとではないだろうけれど、本当に遼雅さんのすべてに弱いから、たすけてほしい。


「――温まった?」


すこし楽しそうな声だ。

もう、絶対に好きにならないなんて、むりだとおもう。だって、もう、こんなにも胸がこわれてしまいそうだ。

何も言えないでいれば、もう一度素肌のまま、ぴったりと抱きしめられる。遼雅さんの長い脚が私の脚の間に、つう、と触れる感触だけで、おかしな声が飛んだ。


「も、う……、あ、つくるしいです」


ほんとうに、もう、あつすぎる。

困り果てて、たぶん泣きそうな声が出てしまっていただろう。

声を聞いた遼雅さんは、どこまでも楽しそうな笑い声をあげて、無防備な私のこめかみに、ちゅう、とキスを落としてくれた。


「ああー、もう。食べちゃいたいくらい可愛いなあ」


何度思い返しても、結局私を選んでくれた理由なんてわからないまま、あの日の熱を思い出して、一人恥ずかしくなるだけなのだ。