橘さんは、どこにいても人目を集めてしまうような王子様だ。
必死で説得しようとしていた。こんなふうに自分を安売りしなくても、大切にしてもらえる人だと思う。
「いいですか? もうこれは、しちゃだめです」
「……うん、わかりました」
「ほんとう? もうしない?」
掌《てのひら》にのせた手が、下からきゅっと掴まれる。
俯いたその人が、私の手を見つめていることに気づいた。叱られた子どものような姿に、胸があまく痺れてしまった。
本当に、どうしたらいいのだろうか。
「――しないように」
「はい?」
「しないように、柚葉さんが見張っていてください」
「ええ……?」
「柚葉さんが側にいてください」
乗せていた左手の指の先を、きゅっと掴まれる。
狼狽えているうちに、指先が橘さんの口元へ寄せられた。恭《うやうや》しく頭を垂れた人が、手の甲にやわい口づけを落としてくれる。
「たち、」
「側に、いてくれますか?」
本当に、どうしてこんなことになってしまったのか、すこしもわからない。
「でも、」
「ご両親はどちらに住んでいるんですか? 来週、お邪魔できればいいんですが」
「あの、」
「新居はもうすこし、広いところにしましょう。ベッドは大きなものを」
「ベッド……?」
「ああ、肝心なことを忘れていました。柚葉さん」


