【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】

懇願するような瞳だ。

ロックナンバーを口遊みかけた人にぎょっとして、綺麗な唇を両手で塞いだ。


「な、に言ってるんですか?」

「ん、」


もごもごしかける橘さんの唇に気付いて、ぱっと手を離せば「安心してもらえるかと思って」と言われてしまった。

逆に不安になる。

びっくりして狼狽えてしまった。


「柚葉さん、瞳が震えてる」


ぴくりと肩が反応してしまった。

まっすぐに見つめられると逸らせなくなる。

手の上に携帯を置かれて、もう一度「見てください」と囁かれてしまった。私に対して誠実であろうと思っていることは良く伝わった。

やり方がだめだ。くらくらしながら、必死で携帯を握りしめている。


「たちばなさん」

「うん?」

「手、だしてください」

「はい」


疑うことなく差し出された両手に、おかしな気分になった。お手を待たれているみたいだ。

左手の上に携帯を置きながら、両方の手を橘さんの手のひらの上に乗せる。


「うん?」


やさしい声が問うてくる。あまい音程で胸がしびれてしまった。

これはもう、すぐに好きになってしまいそうだ。どうしたらいいだろう。


「橘さんの心は、橘さんのものです」

「俺の?」

「はい、だから、隠してもいいんです。……たくさん、いろんなものを大事にできる人のほうが、すてきです。こんなことをしなくても、そばにいてくれる人が、たくさんいます」