何を言ってしまっているのだろうか。
しどろもどろに告げれば、目の前の貴公子がいっそう綺麗に微笑んでしまった。
「――じゃあ、来週は柚葉さんのご両親に、挨拶に伺います」
衝撃的な一言から、記憶はあいまいだ。
ただ、かなり酔っぱらっていたことは覚えている。ふらふらする私を支えながら、橘さんが何度も声をかけてくれていた。
「柚葉さん、帰れますか?」
「ゆずはさん」
「俺の家に、連れ込みますよ?」
どろどろと甘い声だけが聞こえていた気がする。
踏み込んで、やわらかなソファに乗せられた時、ようやく自分が大きな失態を犯してしまったことに気づいた。
どこからどう見ても、私の部屋じゃない。
整頓されている部屋は、橘さんの匂いであふれかえっている。瞬時に立ち上がろうとして、転びそうになったところを抱き起された。
たまらなく落ち着く匂いがする。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさ、い。飲みすぎ、ました」
「いえ、俺も勧めすぎてしまいました」
「そんな、ええと、ごめんなさい、お家にまで……」
「プロポーズしてすぐに連れ込んだりして、軽蔑されないかちょっと焦ってます」
申し訳なさすぎて俯く私をそっとソファに乗せて、笑いを誘うように告げてくれる。
橘さんのことを好きにならない人なんて、この世界のどこにいるのだろうか。
ぼうっと見上げたら、首を傾げた人が思い出したように携帯を取り出した。
「どうし、」
「携帯、見て良いですよ」
「うん、と?」
「俺には柚葉さんだけです」


