ダメに決まっている。焦っていれば、「俺とは、嫌ですか」と聞かれて瞬時に首を横に振っていた。
「嫌なんて、とんでもないです」
「じゃあ、いいですか」
「じゃあって……」
嫌いじゃないなら貰って欲しいと言われて貰う物のような、お裾分けみたいに差し出されている気がする。
どうしたらいいのかわからず、「ワイン、もうすこし飲みますか」と聞かれて、逃げるように首肯した。
サーブされるまま呑み込んで、楽しそうな瞳にどぎまぎしてしまう。
どうしよう。どうしたらいいだろう。
慌てすぎて、橘さんに握られている手を放すことすら忘れてしまっていた。きゅっと力を込められて、肩が上ずった。
「俺のこと、好きにならなくて良いです」
「あ、う」
「仕事も続けて良いです。……ここは会長の後ろ盾もあるので、絶対です。もちろん家庭に入りたいなら、それもいいです。俺が働きます。なるべく楽しく、あたたかい家庭にしたいです」
「え、と」
「もし仮に、俺が誰かを依存させるようなことを仕出かしたら、止めてもらえますか?」
「それは、あの、いつでもできますが……」
「ありがとう。柚葉さんは、他に約束にしたい条件はありますか?」
「え、あの……、ちょっと待ってください、全然整理できなくて」


