その瞳に弱い。
橘さんが思う以上に私の心臓はうるさく鼓動し続けているし、橘さんの纏う匂いは、かなり好きだ。たぶん、抱きしめられたらぐっすり眠れてしまうだろう。
嫌いになる理由がなくて、焦っている。
「ええと、抱きしめてくれる人、でしょうか」
「……そんなに簡単なことですか?」
婉曲表現にしすぎたと思う。もう一度口を開いて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「温かい人が良いです」
「温かい?」
「はい、その、抱きしめて眠ってほしいんです」
半分やけくそになって言い切ってから、グラスに注がれていたワインを呑み込んだ。
これ以上一緒にいれば、ころっと橘さんを好きになってしまうだろうし、契約結婚の相手に選ばれたら地獄を見ると思う。
依存体質ではないけれど、ここで見切りをつけられたほうがいい。すこし痛む胸を無視して俯いた。
そのはずなのに、太ももの上でぎゅっと握っていた指先に大きな手が重ねられて、思わず顔が持ち上がってしまった。
「柚葉さん」
「は、い」
「俺と契約結婚、してくれませんか?」
やっぱり、よりも驚きが勝った。
びっくりしすぎて、固まってしまっていたはずだと思う。それなのに、橘さんは気にすることなく笑って「だめですか?」と首をかしげてきていた。


