「……それは、光栄なことだけど」
「依存まで行ってしまったら、大変ですね」
可愛いなんて面と向かってあっさりと言ってしまう人だ。きっとどこまでも優しくされて、手放しがたくなってしまうのだろう。
ふいに思いついて、悩ましい表情を作っている人の目を見据えた。
「橘さん」
「うん?」
「橘さんのこと、すこしも意識していないような女性と結婚されたら、いいんじゃないでしょうか?」
我ながらいいアイデアだと思った。
私の声に、橘さんが目を丸くして、立ち尽くしてしまった。水族館で話すような作戦会議ではない。けれど、妙案だと思いついて勝手にうれしくなってしまう。
「ふふ、どうですか?」
この上なく上機嫌で、自分の頬が笑っていることには気づかなかった。私の表情を見た橘さんがますます目を丸くして、またふっと顔をそらしてしまった。
「橘さん?」
「うん、いい提案だね」
「本当ですか? よかったです。私とは、そうですね。会長の気が済むまではこうしておしゃべりして」
「うん」
「橘さんの理想に合うような女性を考えるのは、どうですか?」
二度目のデートで、私はそのように告げたはずだ。
「あの、橘さん?」
「柚葉さん」
それがどうして、こうなったのか。


