申し訳のなさそうな人の瞳が、やさしく胸をくすぐってくる。そういえば、社内でもそうして女性に好かれてしまった過去があると先輩から聞いていたかもしれない。
今更思い返しながら、ゆっくりと声をあげた。
「というと?」
「うん、俺、ダメなんだ」
橘遼雅にも苦手なことがあるのか。
いつのまにか、一人称が変わっている。すこし近しいところまで来られたのだろうかと思わせてしまうから、橘さんは危険な人だ。
二度の逢瀬だけで、たっぷりと理解してしまう。
「だめとは?」
わかっているのに問いかけた。水槽のブルーを受けた橘さんの密やかな瞳が、うつくしくきらめく。
欠点なんてどこにも見当たらない王子様が、やさしく笑っていた。
「つまり、どうしようもなく、あまやかしたいの」
あまやかしすぎて、相手を依存体質にしてしまうらしい。はじめて聞いた原因に驚きすぎて、しばらく言葉が出なくなってしまった。
「幻滅した?」
「いえ、」
滅相もない。
どこからどう見ても理想の男性なのに、結婚していない理由はそこにあったらしい。
本人としては結婚願望もあって——それはまあ、あまやかせる対象が欲しいからなのかもしれないけれど——ぽろりと会長に漏らしたところ、あの縁談にたどり着いたらしい。


