料理上手な母とお菓子好きの姉に囲まれて、すっかり私はキッチンが大好きになってしまった。
ご飯を作ることは何も苦しくないのだけれど、朝は遼雅さんが作ると言ってくれるから、いつも厚意に甘えることにしている。遼雅さんの作るあたたかい料理も大好きだ。
仮に、この契約が終わってしまったら、かなりさみしいと思うくらいには、爪の先から体の奥の奥まで、遼雅さんでいっぱいになってしまっている。
依存かなあ。
一人で思いながら、野菜を切る。
遼雅さんが私を選んでくれたのは本当に不思議だ。
淡々と料理を進めながら、何度も思い浮かべている謎について考えてみる。
一度目のデートはお昼のカフェだった。私が倒れた翌週に設定されたデートの待ち合わせ先に現れた橘さんは、どこからどう見ても申し訳のなさそうな顔をしていた。
「佐藤さん、申し訳ないです。なかなか会長にご理解いただけなくて……」
開口一番の謝罪で、唖然としてしまったのが良い思い出だ。とりあえず、会長に勧められたカフェでランチをして、とくに気にしていないことを何度も繰り返し告げたような気がする。
「大丈夫です。それより、婚約者さんは……大丈夫ですか? 私は橘専務のほうが心配です」
「きみは……」
「はい」
「いや……、私のことは、どうか、名前で呼んでください」


