『割れちゃったの! 指、ケガしなかった?』


まるで遼雅さんのような言葉だ。

すこしおかしくなって、キッチンへと歩きながら笑ってしまった。私よりも姉のほうがよっぽど危なっかしいのに、いつも心配して声をかけてくれる。

後ろできゃあきゃあと誰かが話している声が聴こえて、ますます頬が緩んでしまった。


「うん、だいじょうぶだよ。萌お姉ちゃん、今忙しかった? ごめんね」

『うん? ううん、パパが遊んでくれてるから、私は暇だよ。ゆずこそ、遼雅さんは?』

「遼雅さんはまだお仕事」

『ええ~? さみしいね。はやく帰ってくるようにお姉ちゃんもお願いしておく』

「ふふふ、ありがとう」


寂しいなんて言いあうような間柄ではない。

目に入れても痛くないくらいに可愛がってくれている姉夫婦が、私と遼雅さんの結婚が恋愛結婚ではないことを知ったら、どれほど悲しむだろうか。

想像ができてしまうくらいには側にいさせてくれる優しい人たちだった。

遼雅さんの困り顔を見たときに、結婚を持ち掛けてしまったのは、ずっと姉の夫のような優しい人と結婚したいと思い続けていたからだろうか。


『今度また、結婚記念日に贈るね』

「え? またくれるの?」

『ふふ、ゆずも毎年くれてるのに~。今度はゆずが落としても割れないお皿にするね』

「そんなお皿あるかなあ?」

『ベビー用品には多いから、セットで贈るね』