どう穏便に済ませようかと考えあぐねているうちに、後ろから助け船が出されてしまった。
すぐ隣に歩いてきた心強い先輩が「ですから、明日の調整でよろしいですか」と声をあげて笑っているのが見えた。
渡総務部長を言い負かせるのは、青木先輩くらいだと思う。
どうでしょうか、と畳みかけるように言って、渡部長が眉間の皺をよりくっきりと浮かび上がらせたところまで見て、目をそらした。
こわい。迫力がありすぎる。
半分泣きたい気分だ。
こちらの気分など知らない人に「明日、なるべく早くお願いします」と吐き捨てられて、部屋を出て行った音を聞いた。
ようやくこわばっていた肩の力が抜ける。
「渡さん、本当に佐藤ちゃんのことほしいのねえ」
「ええ? 絶対に違います。あれは、橘専務付きの秘書にわたしが配置されていることに反対しているんです」
「どうだか? 完全に言いがかりでしょ」
証拠がないから何とも言えないところだ。
何度かシステム部に掛け合って、メールの不具合についても確認しているけれど、忙しいからか、うまく取り合われたことがない。
だいたいこのくらいの時間に怒られて、遅くまで残る理由になってしまっていることだけが事実だった。
「……橘専務に相談したら?」
「いえ、大丈夫です」
そんなことをしたら、専務は本気で取り合って、問題を解決しようとするだろう。


