後ろで先輩が立ち上がる音を聞きながら、頭を下げて「もう一度送っていただけますか」と告げる。
顔をあげてみれば、眉を顰めた40代の男性がじっとこちらを見つめているらしかった。
「何度目のことか、わかっているだろう」
「はい、申し訳ございません」
何度か先輩が言い負かすたびに業務量が増えてしまったから、おとなしく引き下がることにしている。
幸いにも橘専務の予定に自分の業務を合わせている間は、仕事量が多くてもそんなに支障がなかった。
もちろん、遼雅さんと結婚する前までの話だけれど。
「秘書の仕事がそんなに大変なら、配置を変えてやってもいいが」
「それは、とんでもないです」
「橘専務付きは大変だろう。総務には空きもある。きみの能力を勘案して掛け合ってやってもいい」
よほど私が橘専務付きの秘書をやっていることが許せないらしい。何度か言われたことをもう一度言われてしまった。
専務付きの秘書に変わってまだ一年。
仕事には満足しているし、それなりにやっているつもりなのだけれど、こうまで言われてしまうと返す言葉もない。
「……役員の皆さんの予定調整なら、そもそも会長が明日の午後まで海外出張中ですから、明日にならないと日時を確定できないかと思います。今、会長は空の上ですし、機内でパソコンを使う方ではありませんから」
顔をあげてみれば、眉を顰めた40代の男性がじっとこちらを見つめているらしかった。
「何度目のことか、わかっているだろう」
「はい、申し訳ございません」
何度か先輩が言い負かすたびに業務量が増えてしまったから、おとなしく引き下がることにしている。
幸いにも橘専務の予定に自分の業務を合わせている間は、仕事量が多くてもそんなに支障がなかった。
もちろん、遼雅さんと結婚する前までの話だけれど。
「秘書の仕事がそんなに大変なら、配置を変えてやってもいいが」
「それは、とんでもないです」
「橘専務付きは大変だろう。総務には空きもある。きみの能力を勘案して掛け合ってやってもいい」
よほど私が橘専務付きの秘書をやっていることが許せないらしい。何度か言われたことをもう一度言われてしまった。
専務付きの秘書に変わってまだ一年。
仕事には満足しているし、それなりにやっているつもりなのだけれど、こうまで言われてしまうと返す言葉もない。
「……役員の皆さんの予定調整なら、そもそも会長が明日の午後まで海外出張中ですから、明日にならないと日時を確定できないかと思います。今、会長は空の上ですし、機内でパソコンを使う方ではありませんから」


