ここまで言われると、もう否定することもできない。
もしも二人が思いあっているなら身を引くべきなのかもしれないけれど、実際のところは、橘専務にしかわからない。
ほっと息をついてもう一度パソコンと向き合いかけたところで、扉が開かれる音に手が止まってしまった。
今日はやたらと内部のお客さんが多い。
「佐藤さん、いるかな」
「げ」
先輩の控えめな声が耳に擦れて、躊躇うことなく立ち上がった。何度も聞いた声だ。
振り返ってみれば、やはり想像通りの人が立っている。
「渡総務部長、どうされましたか?」
時刻はもう、あと10分ほどで定時になるころだ。
何事もなければ、今日はこのまま退勤するつもりだった。しかし、この人がここを訪れるのはいつもこのくらいのタイミングだから、定時退勤をあっさりと諦めてしまった。
この人が相手だと、どうにもならない。
「メール、送った件、もう終わってるかな」
「……ええと、いつのメールのことでしょうか」
「昨日送っただろう」
「昨日ですか? ええと、どういったご用件でしたか?」
「役員のみなさんの日程調整の依頼だよ。今日までにしていたんだが」
しょっちゅう起きる連絡ミスだ。
何度言われてもメールボックスには連絡が来ていないのだけれど、それを言ってもどうにもならないことは学習していた。


