静かに囁いた声に振り返って、綺麗なパンツスーツを着こなした人と目が合ってしまった。立ち上がって駆けよれば、下から上までをじっと見まわしてから口を開かれた。
「橘専務と話したいんですが」
「はい、今お戻りになりましたが、すこしお待ちいただけますか?」
園部さんはこの会社ではそこまで多くない女性の営業のうちの1人だ。橘専務の直属の部下だったことから、いまだに慕って相談に来るところをよく見かけている。
先輩の目には、そういうものには映らなかったみたいだけれど。後ろから好奇の視線が刺さりつつ、専務に内線をかけた。
「はい」
「営業一課の園部さんがご相談にいらっしゃいましたが、お通ししてよろしいですか?」
「園部さん? はい。お願いします」
特にアポイントはなかったらしい。園部さんも忙しい営業だ。気にせず目の前の女性に入室を促せば、今度は一瞥もくれずにまっすぐに役員室へと歩いて行ってしまった。
依然としてにまにまこちらを見つめている先輩に苦笑して、席に腰かける。
「ほらね? いつも来るでしょ? 内線で良いのに、健気よねえ」
「普通の上司と部下に見えますけど……」
「甘いね! あんなにおめかししてる園部さん、ここに来る時以外に見ないもの。絶対そう」


